相続が発生すると財産を受け継ぐための手続きが行われることとなりますが、事情により相続をしたくないという方もいらっしゃるものです。
受け継ぐ財産よりも負債のほうが多くなっている場合もありますし、他の相続人に財産を譲りたいという場合もあります。
さらに、受け継ぐ財産に魅力を感じない場合も相続をしたくないと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。
相続が発生しても、必ずしも相続しなくてはいけないことではなく、相続に魅力を感じない場合、メリットがないという場合は相続放棄をすることができます。
この場合、借金などマイナスの財産がある場合はそれを受け継ぐこともありませんが、そのかわりプラスとなる財産も受け継ぐことができないので、相続の内容についてはよく確認しておきましょう。
相続放棄の手続きは相続が発生したことがわかってから3ヶ月以内に行いましょう。
手続きについては家庭裁判所で行われますが、この場合は被相続人の最後の住所の管轄する家庭裁判所に申し立てを行うこととなります。
相続放棄は、相続人が積極的に手続きを行うことで相続人の地位を失う手続きですが、相続人に一定の事由があった場合には、当然に相続資格を失うということがあります。この事由のことを、相続欠格事由と言います。
民法に定められた相続欠格として、被相続人や先順位の相続人を故意に殺害したような場合があります。同順位の相続人を殺害した場合も同じです。そして、被相続人の殺害を知りながら、告訴や告発をしなかった場合も欠格事由に該当します。ただし、これについては、殺害者が事故の配偶者や直系血族であった場合などに例外が認められています。
他には、詐欺や脅迫によって被相続人が相続に関する遺言をしたり取消し・変更をしたりすることを妨げた場合なども欠格事由に該当すると定められています。
欠格事由に該当することについては、特に裁判上の宣告は必要ありません。該当すれば当然に相続資格を失うことになります。
また、相続欠格に該当したことは、戸籍に記載されません。このことから、欠格者が相続資格がないことを隠して相続手続きをする可能性があります。たとえば、相続欠格者が相続登記の申請をする場合、添付書類である戸籍からは相続欠格者であることが判明しませんので、登記手続きは受理される可能性が高いです。このような場合には、真の相続人から相続回復請求をすることができます(民法884条)。
- Q、相続放棄はどこの裁判所ですればよいですか?
- A、相続放棄の申述は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対してします。
- Q、相続放棄をした相続人は、生命保険を受け取ることができなくなりますか?
- A、生命保険金は相続財産ではなく、受取人の固有の財産です。したがって、相続放棄をしても、生命保険を受け取る権利を失うことはありません。
- Q、相続放棄をすると、遺族年金を受け取ることができなくなりますか?
- A、遺族年金は、被相続人と一定の関係のある遺族であるという地位に基づいて支給されるものです。相続放棄をしても、その地位を失うわけではありませんから、遺族年金を受け取る権利を失うわけではありません。
- Q、被相続人が生きている間に相続放棄をすることはできますか?
- A、相続放棄の申述は、相続が発生した後にしかすることはできません。
- Q、相続放棄の熟慮期間とはなんですか?
- A、相続放棄の申述は、自己のために相続が発生したことを知った後3か月以内にしなければいけません。この3か月の期間のことを熟慮期間といいます。熟慮期間を3か月とすることにより、相続関係の早期の安定を図る狙いがあります。3か月の期間は、利害関係人または検察官の請求により、伸長することもできます。
- Q、被相続人が亡くなったことを知ってから3か月が経過した後に相続放棄をすることはできますか?
- A、相続の発生を知っていたとしても、相続財産の内容を知らなかった場合、たとえば被相続人に借金があることを知らずに3か月が経過し、その後に借金の存在を知ったような場合には、相続放棄が認められることがあります。
- Q、被相続人の財産を処分しましたが、相続放棄をすることはできますか?
- A、相続人が相続財産の全部又は一部を処分したときは、相続人は原則として、単純承認をしたものとみなされ(民法第921条)、相続放棄をすることはできなくなります。
- Q、相続放棄をした後に放棄を撤回することはできますか?
- A、いちどした相続放棄を撤回することはできません(民法第919条)。ただし、詐欺や強迫によって相続放棄をした場合には、取り消しをすることが可能です。
- Q、相続放棄の申述についての照会書とはなんですか?
- A、家庭裁判所に相続放棄の申述をすると、裁判所から「照会書」という書類が送られてきます。相続放棄の申述をした方が、本当に放棄をする意思があるかどうかを確認するための書類です。
父が亡くなった後暫くして、消費者金融などから多額の負債(借金)がある事が分かり、戸惑いを隠せなかった事を昨日の事のように思い出します。
子供は私一人なので、残してくれた財産(わずかばかりの預貯金)を相続する予定だったのですが、負債がそれを上回る金額だったので、どうやって返済すれば良いのか、皆目見当がつかなかったからです。
私の子供も育ち盛りで、これから先教育費等でお金が掛かるものですから、途方に暮れていました。
とは言うものの、素人である私にはどうすれば良いのか分かりません。ですから、専門家に相談しよう、そう決意したのです。
インターネットで調べていくうちに、相続の分野に強い司法書士の存在を知り、藁にも縋る気持ちで、問い合わせてみました。
すると、相続放棄が出来る可能性を指摘されたのです。親切、丁寧な対応が気持ち良かったので、お任せする事にしました。
すると、意外な結果になりました。その司法書士は、債務の整理にも強みを持っており、相続放棄の手続きをする前提として、父の債務について全債権者に問い合わせ、調査をしてくれたようなのです。すると、そのうちの1社が利息に関する法律の上限金利を超える、いわゆる「グレーゾーン金利」での取引を行っていたようで、その会社に対して過払い金の請求をし、たくさんのお金を取り戻してくれたのです。
さらに、過払いが発生していない、法定上限金利以内での取引を行っていた金融会社についても、父が長期間返済を行っておらず、消滅時効が成立するための期間が経過しているということで、「時効援用通知」というものを代理人司法書士名での内容証明郵便で送ってくれました。すると、時効援用通知を受け取ったその会社は、もう私に対して今後は請求をしないと約束してくれたそうです。その確認も、司法書士が代理でやってくれたため、私は債権者とはまったく話をすることがなく、解決できました。
一人で悩みを抱え込んでいたら、相続放棄が出来る事すら思いつかなかったはずです。しかも、相続放棄はせず、過払い金返還請求と消滅時効の援用をしてもらったために、手続きの費用も過払い金から捻出することができ、手元にお金が残ることとなりました。そして、父が残してくれた預貯金についても、相続放棄をしていたら引き継ぐことができなかったのですが、相続放棄をしないで済んだため、引き継ぐことができました。わずかな金額ではありますが、せっかく父が遺してくれたものですから、受け取ることができて、本当によかったです。
専門家に相談して、本当に良かったです。相続放棄をはじめ、遺言等お金に纏わる悩みがある時こそ、専門家にアドバイスを受ける事をお勧めします。